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多発性硬化症(MS)で起こる特殊な形の細胞死を防ぐことによって、病気の進行を止められる可能性が新しい研究によって明らかになった。

その細胞死の形は、ピロトーシス(pyrotosis)と呼ばれ、pyroはギリシャ語で炎や熱を意味する。

研究チームによれば、ピロトーシスはMSで起こるミエリン鞘の破壊の裏にある「第一のメカニズム」であるという。

この研究は、Proceedings of the National Academy of Sciences誌に掲載された。

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この研究は、人間の脳でピロトーシスがどのように分子レベルで働くかを説明した最初の例だ。

「これは、大きな変化をもたらすかもしれない。なぜなら、我々は炎症と神経変性が組み合わさったMSで脳細胞が損傷を受ける基本的なメカニズムを発見したからだ」と著者のChristopher Power教授(MS Center at the University of Alberta)は述べる。

彼とその研究チームは、ピロトーシスに重要な酵素を阻害する実験的な薬であるVX-765を発見し、てんかんの治療薬としての試験を現在行っている。「この薬は、人間での安全性が知られている」と彼は付け加える。

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多発性硬化症とミエリン鞘の破壊


MSは、長期間に渡って中枢神経が影響を受ける病気で、脳や脊髄、視神経の機能が損なわれるが、現在は根本的な治療法がない。

多くの科学者が、MSは免疫システムが健康な組織を攻撃することによって、炎症と健康な組織の破壊が起こる自己免疫疾患だと考えている。しかし、何が免疫システムによる誤った攻撃を引き起こすのかは明らかでない。

MSでは、免疫システムは神経細胞の軸索の絶縁体の役割を果たすミエリン鞘を攻撃する。この攻撃によって、神経細胞の軸索自体がダメージを受けることもある。免疫システムは、中枢神経でミエリンを作り出す細胞であるオリゴデンドロサイトも攻撃することがある。

その結果、損傷を受けた中枢神経の部位によって、予測困難な形で様々な症状が現れる。

典型的な症状は、視覚障害、知覚障害、運動障害、しびれ、発話困難、ひどい疲労などがある。

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MSとピロトーシス


細胞死は、外的要因によって突然に起こるものの他に、「制御された細胞死」という形が存在する。

このような遺伝的にプログラムされた細胞死は、過剰な細胞を取り払い、全体にとって有害になる細胞や深刻な損傷を受けた細胞を破壊する。

科学者らは、プログラムされた細胞死を、分子メカニズムの特徴によって新たに分類しようと試みている。

ピロトーシスは、そのような細胞死の分類の一つであり、炎症分子である「インフラソーム」によって起こることから、その名前が付けられた。

最近発見されたピロトーシスの主要な「執行役」として、「穴を作るたんぱく質」であるgasdermin D(GSDMD)が知られている。

Power教授によれば、カスパーゼ-1(caspase-1)と呼ばれる分子はGSDMDを活性化することが知られていたが、この活性化が神経の炎症に関与しているかは明らかでなかったという。

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新たなMS治療薬の可能性


彼らの研究は、ピロトーシスこそがMSで起こる細胞死の形であり、GSDMDを活性化する酵素によって引き起こされるという分子的な証拠を与えた。

研究チームは、ピロトーシスが骨髄細胞だけでなく、ミエリンを形成するオリゴデンドロサイトでも起こっていることに驚いたという。彼らは、動物のMSモデルだけでなく、MS患者の中枢神経の組織でもこのピロトーシスを観察した。

さらなる実験で、研究チームは、これらの細胞を炎症性の刺激にさらすことで、インフラソームの活性化とピロトーシスが起こることを確認した。

最後に、研究チームはカスパーゼ-1の働きを阻害するVX-765と呼ばれる小分子によって、「MS実験動物モデルでピロトーシスが防止され、脱ミエリン化と神経変性が減少した」ことを示した。

「我々は、この薬が、神経毒性のある炎症のサイクルを打ち破り、MSでの脳細胞の喪失を防ぐと考えています」と筆頭著者のBrienne A. McKenzie博士は語る。

研究チームは、彼らの発見がMSの進行をモニターする新手法にもつながる可能性を指摘している。これは、MS症状が非常に多岐にわたり、時間とともに変わることから、現在の技術では非常に難しいことだ。

この研究の重要性について、National Institute of Neurological Disorder and StrokeのAvindra Nath医師は、「現在のMS治療法は、炎症を抑えることを目的にしていますが、脳細胞自体を標的にしたものはありません。この研究は、臨床に関連する新しい経路を見つけたことで、細胞への障害を防ぐ新しい治療標的への扉を開いたと言えます」と述べた。

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参考:MS: New findings may 'prevent future loss of brain cells'