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State University of New Yorkで行われた研究により、抗がん剤が自閉症に関連する社会性の欠如からの回復に役立つ可能性が示された。

Nature Neuroscience誌に掲載された論文の中で、研究者らはリンパ腫の治療薬であるロミデプシン(Romdepsin)を低用量で投与することで、自閉症モデルマウスの遺伝子発現を起こし、マウスが社会性の障害から回復したことを報告した。

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自閉症スペクトラム(ASD)は、行動や社会的活動、コミュニケーションに影響する発達障害だ。

米国の統計では、子供の68人に一人はASDであるとされ、その頻度は女子に比べて男子で4倍から5倍高い。

2歳の時点でこの病気の診断は可能だが、多くの場合、ASDの診断は4歳まで確定されない。


低用量の抗がん剤がASDの社会性を回復させる



ASDの症状の中でも、他人との関わりや関係の構築に関する困難さは特に影響が大きく、現在までに効果的な処置は開発されていない。

この新しい研究は、ASDに関連する多数の遺伝子を標的にすることで、この病気の主要な症状を緩和できる可能性を示した最初の例と考えられている。

研究を率いたZhen Yan教授は、「我々は、自閉症に似た社会性の欠如に対して、長期間、効果的に作用し、明らかな副作用もない小分子化合物を発見しました」と言う。

彼女が今回の成果を特に重要と考える理由は、「現在までに様々な精神疾患に対して用いられた化合物は、自閉症の核となる症状に対して治療効果を示すことができなかった」からだ。

彼女らの実験によって、ロミデプシンによって三日間の処置を行うことで、ASDのモデルマウスの社会性が回復することが見出された。今回用いられたマウスは、SHANK3遺伝子を欠損しており、ASDのリスクファクターとして知られている。

社会性の回復は三週間にわたって続き、この期間はマウスの少年期から後期思春期に相当する。この時期は、人間と同じようにマウスのコミュニケーション能力や社会的能力の発達に重要であることが知られている。

この結果は、人間においても同様の処置の効果が長期間続く可能性を示唆していると研究者らは考えている。


エピジェネティックスの制御による効果



以前の研究によりYan教授のチームは、SHANK3が欠損すると、感情と認知を制御するNMDA受容体が機能しなくなることを発見していた。このNMDA受容体の機能不全が脳細胞間のコミュニケーションに問題を起こすことで、ASDのような社会性の欠如が生じる。

マウスの社会性の欠如を測定するために、研究者らはマウスが社会的刺激(他のマウスとの接触)と非社会的刺激(無生物の物体の探検)のどちらを好むかを評価した。

研究チームは、ロミデプシンがどのように社会性を回復させるのかを、エピジェネティックス機構による遺伝子機能の回復によって示した。

エピジェネティック機構は遺伝子の発現を制御する過程で、これによってDNA配列に影響することなく遺伝子の発現を変えることができる。

Yan教授は、以前の研究によってエピジェネティクスの変化がASDに大きな影響を与える可能性が示されていたと言う。


クロマチンの再構成がASD遺伝子を活性化する



エピジェネティック機構が遺伝子の発現を制御する方法はいくつか存在する。例えば、DNAを化学的に修飾することで遺伝子を不活性化することができる。

しかし、Yan教授によれば、自閉症スペクトラムで働く主なエピジェネティック機構は、DNAと複合体を作るたんぱく質であるクロマチンの構造変化である。

「自閉症とがんのリスク遺伝子の大幅な重なりは、その多くがクロマチン再構成因子であり、がん治療に用いられるエピジェネティック薬を自閉症治療へと転用するというアイデアをサポートしている」とYan教授は記す。

今回の研究の重要な結果のひとつは、多くの自閉症関連遺伝子がたった一つの薬の標的になりうるということだ。

ロミデプシンは、細胞核内のDNAを整理するためのたんぱく質であるヒストン(histone)を調節する薬だ。

この薬は、密につまったクロマチン構造を解くことで、遺伝子暗号の翻訳に関わる分子の接近を可能にし、遺伝子発現を回復させる。

ゲノムスクリーニングによって、研究チームはロミデプシンが自閉症モデルマウスで抑制されている200以上の遺伝子の発現を回復させることを明らかにした。

「自閉症リスク因子である一連の遺伝子の発現を調節できるという利点は、この治療法の強力で長期間に渡る効果を説明するかもしれません」とYan教授は述べた。







参考:Autism: Anti-cancer drug may improve social behavior