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イギリスの研究チームは、皮膚細胞から作製した神経幹細胞によって、動物実験において多発性硬化症の神経損傷が回復されたことを発表した。この成果により、この病気の個別化医療の実現がまた一歩近づいたかもしれない。


University of Cambridgeの研究チームは、成体のマウスから採取した皮膚細胞を再プログラム化することによって、神経幹細胞へと変化させた。

この人工的な神経幹細胞(induced neural stem cells, iNCS)をマウスの脳脊髄液に移植することで、炎症が抑えられ、中枢神経の損傷が回復された。

この論文は、Cell Stem Cell誌に発表された。


多発性硬化症(Multiple Sclerosis, MS)は、進行性の神経変性疾患で、世界中で230万人の患者がいると推定される。

MSの正確な原因は明らかでないが、異常な免疫システムの反応が、中枢神経での炎症を引き起こすことで、神経細胞を保護するミエリンの働きが阻害されることが一因と考えられている。

ミエリンの損傷によって神経シグナルの正常な働きが妨害された結果、顔や四肢の痛みおよび運動やバランスの問題といったMSの症状が現れる。


幹細胞による多発性硬化症の治療



以前の研究により、MS治療への幹細胞の利用が研究されている。神経幹細胞は、中枢神経の様々なタイプの細胞へと変化することができる細胞で、神経細胞やグリア細胞のもとになる細胞だ。

しかしながら、幹細胞をMS治療に応用する際の問題として、幹細胞の作製のために受精卵の破壊を必要とする倫理的問題や、臨床応用に耐える高い品質の幹細胞の維持といった問題があった。

また、受精卵由来の神経幹細胞は、患者の免疫システムから異物と判定され、攻撃を受ける可能性もある。

そこで研究チームは、成人の皮膚細胞を再プログラムすることで人工的に神経幹細胞iNCSへと変化させる手法に着目した。重要なことは、iNCSは患者自身の皮膚細胞から作製できるため、免疫系からの攻撃は大きく減少することが期待される点だ。

研究を率いたStefano Pluchino博士と彼の研究チームは、iNCSがMS治療に使えるかどうか検討するため、MSのモデルマウスを用いた実験を行った。

彼らは、マウスから皮膚細胞を入手し、再プログラム化によって神経幹細胞へと効果的に変化させた。そして、MSマウスの脳脊髄液へと作製したiNCSを移植した。


希望の持てる研究結果



研究チームは、MSで上昇することが知られるスクシネート(succinate)とよばれる物質が、幹細胞移植によって減少することを見出した。スクシネートは、マイクログリアと呼ばれる中枢神経のグリア細胞に働きかけて、炎症を引き起こすことが知られている。

iNCS移植によってスクシネートのレベルが減少することで、脳や脊髄での炎症によるダメージが減少させられる。

当然ではあるが、iNCS移植を臨床へと応用するためには、人間による臨床試験によって、その治療としての効果と安全性が確認されなければいけない。しかし、この研究はその希望を与えていると言える。

「特に期待が持てる点は、従来法に比べてiNCSが簡単に入手でき、免疫反応による副作用のリスクがないことです」とPluchino博士は述べる。

我々のマウスでの実験は、患者の再プログラム化された細胞がMSのような慢性的な炎症性疾患の治療のための個別化された方法を提供できることを示唆しています。

-Stefano Pluchino博士





参考:Multiple sclerosis: Skin cells may help to repair nerve damage