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つい20年前には、多発性硬化症の治療法はほとんど開発されていなかった。しかし今、研究は勢いづいて新たな発見や治療法の候補が次々と現れている。多発性硬化症の治療法はどれくらい進歩してきたのか、見ていこう。




多発性硬化症(Multiple Sclerosis, MS)は、脳や脊髄での障害を引き起こしうる病気だ。世界中で210万人が影響を受けていると推定されている。

MSの発症メカニズムは完全には分かっていないが、多くの研究者が髄鞘への自己免疫疾患であると考えている。髄鞘(ミエリン鞘)とは、神経細胞を取り巻いている保護組織で、脳や脊髄から体の他の部位への信号伝達を促進している。

この病気は長期にわたって神経活動を低下させ、神経を永続的に損傷させていく。症状は、損傷された部位や損傷の程度によってまちまちである。

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最近FDAによって認可された薬


現在、疾患修飾療法(disease-modifying therapies)がMSの進行を遅らせるベストな戦略とされている。疾患修飾療法は、再発の頻度と重症度を下げ、新たな神経の損傷を抑えることで、障害の進行を遅らせる。

利用可能な疾患修飾療法は急速に増えてきており、アメリカ食品医薬品局(FDA)により認可された再発寛解型MSなどの疾患修飾療法の数は15に上る。そのうちの一つは、一次進行型MSへの適用も認可され、もう一つは二次進行型MSへの適用もFDAにより認可された。

最も新しく認可された疾患修飾療法はオクレリズマブ(Ocrelizumab)だ。


オクレリズマブ


FDAは、再発型MSの画期的な治療薬を2017年に認可した。その薬は、一次進行性MSへの適用が認可された最初の薬でもある。2017年の研究により、オクレリズマブは再発型MSの再発を大幅に減少させ、一次性進行型MSの症状の進行を遅らせることが示された。

オクレリズマブは、他の多くのMS治療法と同じように、免疫を抑制する薬だ。ほとんどの薬がT細胞を標的にしている一方で、オクレリズマブは髄鞘の破壊に関与するB細胞の一種を標的にしている。

再発寛解型MSに関する第三相臨床試験で、インターフェロンβ‐1aと比べてオクレリズマブは、MSの再発率を47%減少させ、障害を43%抑え、炎症による脳の損傷を95%減少させることが示された。

一次進行型MSに関する第三相臨床試験では、オクレリズマブとプラセボ薬が比較された。投与を受けた12週後には、プラセボ群での障害の進行が39.3%なのに対して、オクレリズマブ群では32.9%であった。120週間の治療を受けた後、25フィートの歩行試験の結果は、プラセボ群で55.1%悪化したのに対し、オクレリズマブ群では38.9%の悪化に留まった。

また、オクレリズマブを受けた患者では、プラセボ群に比べて脳の損傷が少なく、脳容積の減少も少なくなった。

さらに、オクレリズマブの治療によって、一次進行型MS患者の身体障がいの進行を遅らせることができ、車椅子を必要とする時期を最大で7年遅らせるという報告もある。


MS治療薬の最新の開発状況


いくつかのMS治療薬が最終段階の臨床試験を現在行っている。この段階で有効性が認められれば、第一相から第三相のデータがFDAへと提示され、治療法は認可を受けるが、認可されて次のステージへ進む薬は25~30%にすぎない。


ラキニモド(Laquinimod)


ラキニモドは、再発型MSに対する第三相臨床試験と一次性進行型MSの第二相臨床試験を受けている実験的な薬だ。ラキニモドは、免疫細胞の脳への到達を防止するとされる。ラキニモドは抗炎症機能と神経保護機能を持つことが示唆され、免疫細胞により分泌される炎症性物質サイトカインを下げ、脳や脊髄へ到達する免疫細胞を減らすことが期待される。

第三相臨床試験では、ラキニモドはプラセボ薬に比べて年間の再発率を23% 減少させ、障害の進行を33%減らし、脳容積の減少を44%防止した。


自家造血幹細胞移植


自家造血幹細胞移植(Autologous hematopoietic stem cell transplantation, AHSCT)では、MS患者の免疫システムを“再起動”することを目的としている。造血幹細胞は、患者自身の血液や骨髄から採取され、保存される。

化学療法の薬によって、悪い免疫システムのほとんどを駆逐した後に、保存してあった幹細胞が体へと戻される。そして、骨髄へとたどり着いた幹細胞が、新たな免疫システムを3から6か月をかけて徐々に再構築する。

イギリスのImperial College Londonの研究チームによって、再発型MSに対するAHSCTの長期的な結果が最近公表された。その中で、AHSCTを受けたMS患者の46%で5年間、症状の進行が止まったことが明らかにされた。

しかしながら、この方法は激しい化学療法を伴うため、重大なリスクもはらんでいる。

関連記事:免疫システムを”リセット”することで多発性硬化症が寛解する


MD1003


MD1003(高投与量ビオチン)には、一次性および二次性進行型MSに対する第三相臨床試験が行われている。この治療法は、通常の推奨される摂取量の一万倍のビオチンを摂取するというものだ。これによって、細胞の成長とミエリンの産生に関わる酵素が活性化される。これにより、ミエリン鞘の再生の促進が期待される。

一次性および二次性進行型MSの患者に対して、MD1003とプラセボ薬の効果を比較した。MD1003群の患者の13%では、9か月の治療によって障害の程度が改善したが、プラセボ薬では改善は見られなかった。


シポニモド


シポニモド(Siponimod)は、二次進行型MSの治療を目指して開発されている。この薬は、リンパ節でT細胞およびB細胞を捕えることにより、免疫細胞が脳や脊髄へと移行し、ミエリンを損傷するのを防ぐ。

第三相臨床試験では、シポニモドは身体障害の進行リスクを減らすことが示され、三か月の治療でプラセボに対して21%、六か月で26%の減少度であった。この薬はまた、再発の数を減らし、脳の委縮を防止することも示された。


最近のMS治療法研究


MS治療法の研究は、急速に進展している。最近の研究によって、新たな研究領域や新治療法につながる原因の解明、病気の進行や症状への新たな治療法が示されてきた。


筋力トレーニング


デンマークのAarhus大学の研究によれば、認知トレーニングがMSによる認知機能の低下を防ぐ一方で、筋力トレーニングが神経細胞をMSから保護し、結果としてMS症状の進行を遅らせることができる。

研究によって、身体的トレーニングが運動障害や極度の疲れなどのMSの症状を軽減することが示された。

MS患者では、通常よりもはるかに速く脳が委縮していきます。薬によってこの発生を防ぐことはできますが、トレーニングを行うことで、投薬を受けている患者でさらに脳の委縮を最小化することができる傾向があります。さらに、脳のいくつかの小さな領域がトレーニングによって大きくなることも確認されました。

Prof. Dalgas, Aarhus University


抗酸化物質


Oregon Health & Science Universityの研究によって、α‐リポ酸とよばれる抗酸化物質が、二次性進行型MSの治療に有効な可能性が示されている。

彼らの研究によれば、α‐リポ酸の投与を受けた場合にはプラセボ薬に比べて、全脳萎縮が68%改善した。比較として、オクレリズマブは一次性進行型MSにおいて、プラセボ薬に比べて全脳萎縮を18%改善することが報告されている。


腸内細菌


Mayo Clinicの研究者らの研究により、Prevotella histicolaと呼ばれる腸内細菌がマウスのMSを抑制することが報告されている。この腸内細菌によって、炎症性の細胞が減少し、病気と闘うT細胞、樹状細胞やマクロファージの一部が増加した。

Joseph Murry博士は、「これは初期の発見ですが、更なる研究の可能性を秘めています」と述べる。「もし、人体にすでに存在する腸内細菌を、腸内以外の部位での疾患治療に利用できれば、医療の新たな時代が開けるかもしれません。」


MS治療法の確立は間近か?


今のところ、MSを治癒する方法は存在しない。しかし、研究者らはMSに関する重要な進歩やブレークスルーを起こし続けている。

今日、これまでにない数の治療法が開発の途上にあり、病気の診断はより迅速になり、病気の進行を遅らせる治療の早期開始が可能になっている。

MSの症状と生活の質を改善する方法に関する認識は深まっている。さらに、科学者らはMSのリスク因子となる遺伝子を特定し、これが病気の予防法の開発につながるかもしれない。

MSによる神経細胞へのダメージを防ぐというアプローチも試みられている。これらの試みでは、すでにFDAで他の疾患に対して認可された薬を用いた治療法も含まれている。全ての型のMSに対する新たなアプローチの臨床試験も現在、行われている。

MSで神経細胞が傷つくメカニズムを研究することで、科学者らはミエリンを回復させる治療法を探している。MSのモデルマウスを用いた研究で、実験的な処置で麻痺を直し、ミエリンを修復することで四肢の機能を回復させられるという結果が得られている。

運動やリハビリによって、脳の特定の領域での神経ネットワークの再構築を促し、いくつかの機能を回復させる方法についても研究が行われている。

他の研究によれば、ビタミンDや肥満といった生活習慣の改善によって、MS発症のリスクを抑えられる可能性も追及されている。さらに、MSを発症しやすい遺伝子変異も特定されている。

これらの手がかりや証拠によって、MSの発症原因についての理解と、病気を防ぐ方法の確立が促進されるだろう。MS治療の決定版といえるものは未だ確立されていないが、研究の進展がいつか解決法を与えるかもしれない。






参考:Multiple Sclerosis: Are we close to a cure?