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University of Calgaryの研究チームは、クロミプラミン(Clomipramine)と呼ばれる抗うつ薬を進行型多発性硬化症の治療薬の候補として同定した。進行型多発性硬化症には、今のところ効果的な治療薬がほとんど存在しない。 


Nature communications誌に発表された論文で、研究チームは1040種のジェネリック医薬品の薬理活性を培養細胞を用いて精査し、最も有望であったクロミプラミンの効果をマウスで検討した。

専門家の多くは、多発性硬化症(Multiple Sclerosis, MS)は、自己免疫疾患の一種だと考えている。つまり、MSでは、脳や脊髄などの中枢神経が免疫細胞によって攻撃されることによって様々な症状が現れる。

MS患者では、神経細胞の軸索を取り巻く脂肪の層であるミエリンが免疫系により攻撃される。ミエリンが傷つくと、神経の信号伝達が弱まることになる。

MSの症状は多岐にわたり、その重症度も患者によって大きく異なる。症状には、筋肉の弱化、視覚障害、バランスの失調、痛み、痺れ、発話の障害、めまい、震え、聴覚障害などが含まれる。

MSはさらに、うつ病や、記憶、注意、集中、思考、意思決定などの問題を引き起こすこともある。

全世界には、250万人のMS患者がいると推定されている。


再発寛解型MSと進行型MS



MSには主に二つの型がある。再発寛解型MS(Relapsing-remitting MS, RRMS)と一次性進行性MS(Primary Progressive MS, PPMS)だ。

再発寛解型MSの患者は、予期できない症状の再発と消失を繰り返す。MSのうち85%は再発寛解型MSであり、発症から15年から20年後には、多くの場合で二次性進行型MSへと進み、持続的な症状が徐々に悪化していくようになる。

一次性進行型MSは、MS全体の10%を占める。この形のMSでは、症状が初めから持続的にあらわれ、再発を繰り返すことはない。

研究者らは、再発寛解型MSと一次性進行型MSのカギとなる違いを見つけ出そうと努力している。これは、治療の方針を決定する上で重要になるからだ。

論文の筆頭著者であるSimon Faissner博士は言う。「進行型MSで傷害を引き起こすメカニズムは、再発寛解型MSのメカニズムとは異なることがあります。それゆえ、これらの二つのMSには異なる治療の方法が必要なのです。」

例えば、一次性進行型MSでは、再発寛解型MSに比べて、ミエリンでの炎症や脳の病変とプラークが少ないという特徴がある。

また、再発寛解型MSは、女性が男性よりも三倍かかる頻度が高いが、一次性進行型MSでは男女比はほぼ同じである。さらに、発症年齢や症状の重症度にも違いがある。


すでに承認された薬のスクリーニング



再発寛解型MSに対しては、進行型MSよりも多くの治療薬がすでに承認されている。

進行型MSの治療薬を探索するために、研究チームはすでに承認された多くの治療薬を精査することにした。なぜならば、承認された薬については副作用などの情報がすでに多く手に入っているからだ。

ジェネリック医薬品の利点は、潜在的な副作用について多くの臨床経験があることです。したがって、健康な人で耐容性を調べる第一相臨床試験は行う必要がありません。

- Dr. Simon Faisnner

進行型MSに求められる重要な要素は、良好な耐容性を示し、かつ血液脳関門を通って中枢神経へと移行できることだ。

この基準に照らして、研究チームは臨床試験から集めた1040種のジェネリック医薬品の候補の中から、249種を選び出した。

論文の中で研究者らは、進行型MSに有効な薬は三つの病気の原因を標的にしなければいけないと説明する。すなわち、放出された鉄による神経細胞への損傷、酸化ストレスによるミトコンドリアへの損傷、ミエリンを攻撃する白血球であるリンパ球への活性、である。

培養された神経細胞を用いて、研究者らは249種の候補医薬品がこれらの三要件を満たすかどうか検討した。このスクリーニングの結果、クロミプラミンが最も期待される候補として同定された。

そして研究チームは、MSモデルマウスを用いてクロミプラミンをテストし、この薬が神経細胞への損傷と炎症を最小化することを見出した。

進行型MSのモデルマウスを用いたプラセボ薬との比較試験で、症状の発症直後にクロミプラミンを投与すると、麻痺などの症状が減少することも示された。

Faissner博士は、University of Calgaryの訪問研究員としてこの研究を行ったが、今後はドイツのRuhr-Universitat Bochumへと戻り、進行型MSの治療薬の探索と原因の解明を続けていくという。





【参考記事】
Progressive MS: Antidepressant identified as promising treatment (Medical News Today)