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ある免疫に関わる分子が、より重症の多発性硬化症を見つけるためのマーカーになる可能性が報告された。 この発見は、重症化する可能性の高い患者への個別化医療に役立つかもしれない。


多発性硬化症


多発性硬化症(Multiple Sclerosis, MS)は、脳と脊髄からなる中枢神経で起こる慢性的な疾患で、その原因には未知の部分が残り、治療法は未だ限られている。

MSでは、神経細胞の軸索を覆う脂質組織であるミエリンが傷つくことによって信号伝達が阻害され、筋肉の弱化やバランスの障害が問題として表れる。

症状は患者ごとに大きく異なっているが、一般に歩行障害、視覚障害、極度の疲れ、鬱などが含まれる。

MSの原因は、自己免疫反応と考えられているが、なぜ免疫系が突如としてミエリンを襲うのかは理解されていない。また、その症状の重篤さは比較的良好なものから重症なものまであり、予想することは困難である。


多発性硬化症の進行


MS患者の多くは、MSの再発と寛解を経験する(再発寛解型MS)。寛解の期間は、数か月から数年に及ぶ。そして、半数の再発寛解型MS患者が進行型MSへと移行し、継続的で徐々に悪化する症状が現れる。

しかし、一部の患者では再発寛解型MSを経ることなく進行型MSの症状が現れることがあり、これは一次性進行型MSと呼ばれる。

Yale大学の研究チームは、このMS症状の現れ方の違いが、どのような分子メカニズムによるのかを理解するために研究を開始した。


進行型MSのバイオマーカーの発見


研究チームは、100人以上のMS患者について、臨床的な観察と500以上のDNAおよび血漿サンプルの分析を行った。

その結果、二つの分子が進行型MSへの迅速な移行に関連していることが発見された。その分子はサイトカインと呼ばれ、免疫で重要な細胞シグナル伝達に関与する分子であった。

進行型MSに関連するそのサイトカインは、macrophage migration inhibitory factor (MIF)とD-dopachrome tautomerase (D-DT)で、いずれも炎症を促進し、自己免疫疾患を悪化させることが知られている分子であった。

進行型MS患者で頻繁にみられるある遺伝子変異は、特に男性においてMIF産生を上昇させるという関係も明らかになった。

また同じ論文の中で、研究チームはMIFとD-DTが作用するCD74受容体を標的とする薬剤を使うことで、MS症状が改善されることも報告している。


まとめ


これらの発見は、進行の早いMSを見分けるための遺伝子検査に利用できる可能性がある。また、早期に治療を始めることにより、より大きな治療効果が得られるかもしれない。

今回の研究の価値は、MIF経路を標的にした進行型MSに対する治療法を、最も必要とする患者へと適用することを可能にする点だ。もし、MIF阻害剤が適切な患者のみを対象にして開発されれば、薬の開発期間やコストを削減できるだけでなく、副作用の最小化も期待できる。

MSが再発寛解型から進行型へと移行する際の分子メカニズムについては、多くの謎がまだ残されているが、研究チームは今回の発見が重症なMSの早期診断を可能にし、早期治療によって症状の進行を遅らせ、進行型への移行を防げることを期待しているという。





【論文】
MIF and D-DT are potential disease severity modifiers in male MS subjects (PNAS)

【参考記事】
Immune markers may predict multiple sclerosis severity (Medical News Today)