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多発性硬化症を予防し、治療するための新たな戦略が発表された。フロリダ大学の研究チームは、多発性硬化症に対する遺伝子免疫療法を開発し、マウスでその有効性を証明した。


今年九月に公開された論文で、フロリダ大学の研究者らは、多発性硬化症(Multiple Sclerosis, MS)を引き起こす有害な免疫細胞を抑制するための新たな技術を発表した。

この新技術により、マウスを用いた動物実験でMSの発症が防止され、MSモデルマウスの臨床症状が低減された。さらに、現在の免疫抑制療法と組み合わせることで、末期MSのマウスが完全寛解に至ったことも報告された。

この論文はMolecular Therapy誌に掲載された。


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多発性硬化症(Multiple Sclerosis, MS)


多発性硬化症(MS)は、進行性の神経疾患で、痺れ、筋肉の弱化、運動機能障害、疲れなどの症状を引き起こす。

世界で230万人の人々がMSを患っていると推定されており、一般的に20歳から50歳の間で発症することが多い。

MSの原因については不明な点もあるが、免疫系が神経細胞を外敵だと誤認して攻撃することによって引き起こされると考えられている。


MSと免疫


MSでは、免疫細胞の一種であるエフェクターT細胞(effector T cell)による攻撃で、神経細胞のミエリンに存在するmyelin oligodendrocyte glycoprotein(MOG)というタンパク質などが破壊される。

神経細胞へのダメージにより、神経の信号伝達が阻害されることがMSの一因である。通常は制御性T細胞(regulatory T cell)がエフェクターT細胞による攻撃を抑えているが、MS患者ではこれが起こらない。

過去の研究により、制御性T細胞を導入することでエフェクターT細胞によるミエリンへの傷害が抑えられ、MSの神経症状が緩和されることが知られていた。しかし、この効果は限定的で短期間に限られるものであったという。


新たな遺伝子免疫療法


今回の研究では、遺伝子免疫療法の手法を用いることで、より長期間にわたって効果が持続する方法の開発が目指された。

彼らは、ウイルスの一種AAVに由来するベクターを用いて、MOG遺伝子を肝臓へと導入した。これがMOGに対応する制御性T細胞を活性化し、破壊をもたらすエフェクターT細胞を抑えることが期待された。

過去の遺伝子治療では、治療効果の期待される遺伝子を導入することが多かったが、今回は制御性T細胞の活性化によって自己免疫疾患を治療しようという新たな試みであった。


新たな遺伝子免疫療法のMSモデルマウスでの有効性


研究チームは、かれらの新技術をMS発症リスクの高いモデルマウスで検証した。その結果、この治療を行うことで、MSモデルマウスは7か月の間、MS症状を発症しないことが確認された。

さらに、すでにMS症状を発症しているマウスでも、この新治療法を行うことで神経障害や麻痺などのMS症状が消失することが発見された。すでに発症した症状が消失したことは、研究チームにとっても驚きであったという。

さらに、この新治療法は末期のMSモデルマウスにも有効であった。彼らの技術を単独で用いた場合には、末期のMS症状を呈するマウスの症状を改善することはできなかったが、ラパマイシンによる既存の免疫療法と組み合わせた場合には、ほぼ全てのマウスで症状が完全寛解に至った。すなわち、重度の麻痺の症状が消失し、その後100日間にわたっていかなるMS症状も観察されなかった。


まとめ


この遺伝子免疫療法の人間での有効性や安全性については、これから臨床試験によって確認される必要がある。マウスのMSモデルは、実際の人間のMS患者よりも単純であり、かならずしも人間で同様の結果が得られるとは限らない。

研究チームは、MSに関連するMOG以外のミエリンタンパク質についても今後検討を行い、治療法の有効性を高めたいとしている。

これから乗り越えなければいけない障害はあるものの、研究者らはこの治療法について期待を持っている。ウイルスによる遺伝子治療法はMS以外の疾患ではすでに有効性が確立されており、彼らの手法が初期段階のMSに有効であることは非常に楽観視できる、と研究者は述べた。





【論文】
Gene Therapy-Induced Antigen-Specific Tregs Inhibit Neuro-inflammation and Reverse Disease in a Mouse Model of Multiple Sclerosis (Molecular Therapy)

【参考記事】
Multiple sclerosis: Novel gene immunotherapy could prevent, reverse disease (Medical News Today)