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造血幹細胞に存在するあるタンパク質を増加させることによって、免疫系の膵臓のインスリン産生細胞への攻撃を止めさせることで、Ⅰ型糖尿病を治療することが可能になるかもしれない。


Boston Children's Hospitalの研究者らは、造血幹細胞中のPD-L1と呼ばれるタンパク質の産生を増加させることで、糖尿病モデルマウスの高い血糖値の症状が打ち消されることを見つけ出した。この成果はScience Translational Medicine誌に発表された。


Ⅰ型糖尿病


Ⅰ型糖尿病では、すい臓が十分な量のインスリンを産生できないことによって、血中グルコースの細胞による取り込みやエネルギーとしての貯蔵が起こらなくなり、血糖値が適切な範囲を超えて上昇する。

長期間にわたって高い血糖値にさらされると、視覚障害や血管、神経、腎臓への障害といった深刻な症状が出る。

国債糖尿病連合の糖尿病アトラス第7版によると、毎年8万6,000人の子供がⅠ型糖尿病を発症しており、発症数は増加する傾向にある。世界の小児Ⅰ型糖尿病患者は54万2,000人にのぼる(糖尿病ネットワーク)。

通常は、すい臓に存在するβ細胞が血中グルコース濃度を感知して、適切な量のインスリンを分泌することで血糖値を正常な範囲に保っている。Ⅰ型糖尿病は、免疫システムが不調をきたすことによって、すい臓のβ細胞が攻撃されることが原因と考えられている。


Ⅰ型糖尿病の治療法の開発


Ⅰ型糖尿病の治療法の開発を目指す研究者が目標とするのは、免疫系によるβ細胞への攻撃をやめさせる方法を見つけ出すことだ。

これまでに、免疫細胞の活動を抑える薬を利用する方法や免疫反応を変えるワクチン、あるいは臍帯の幹細胞を使った治療などが試みられてきた。

より期待されている方法のひとつは、自己の骨髄を移植することによって、免疫系を「再起動」する方法だ。しかしながら、これまでのところ期待されたほどの成果は得られていないのが現状だ。


Ⅰ型糖尿病の造血幹細胞が持つ「欠陥」


今回の新しい研究では、どうして自己骨髄移植が必ずしもうまく行かないのか、その理由が判明したかもしれない。

研究チームは、Ⅰ型糖尿病の造血幹細胞に、ある欠陥が存在することを発見した。それは、免疫T細胞による攻撃を制御するPD-L1というタンパク質を十分に発現していないということだ。

彼らは、遺伝子発現プロファイリングを用いて、造血幹細胞がどのようなタンパク質を発現しているかを調べた。その結果、Ⅰ型糖尿病のヒトおよびマウスの造血幹細胞では、PD-L1の産生に関わる遺伝子発現が通常と異なっていることを発見した。この違いは、病気の初期段階においてすら、PD-L1の産生を止めるのに十分な変化であった。

PD-L1は「免疫チェックポイント」に関わる分子で、免疫システムのバランスをとる働きをしている。PD-L1がもう一つのタンパク質であるPD-1とT細胞表面で結合することで、T細胞は不活性化される。


免疫システムを作り直す


研究者らは、造血幹細胞により多くのPD-L1を産生させるための方法を確立し、ヒトとマウスの細胞で試験を行った。この処置を受けた造血幹細胞は、炎症を引き起こす免疫反応が抑制されることが確認できた。

この改変された造血幹細胞を糖尿病モデルマウスに注入したところ、高血糖値の症状が短期間に消えることが見出された。長期間では、細胞を注入された糖尿病マウスの三分の一で正常な血糖値が一生持続した。

研究者らは、造血幹細胞にPD-L1産生を促す方法として、二つの方法を試した。一つは、正常なPD-L1の遺伝子を挿入する方法で、もう一つは、三種類の薬剤によりPD-L1産生を促進する方法である。

今後は、三種類の薬剤を用いる方法について、企業と連携してⅠ型糖尿病の治療薬としての臨床試験を行いたいという。





【論文】
PD-L1 genetic overexpression or pharmacological restoration in hematopoietic stem and progenitor cells reverses autoimmune diabetes (Science Translational Medicine)

【参考記事】
Type 1 diabetes: Could modified blood stem cells lead to a cure? (Medical News Today)