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多発性硬化症の症状を管理するための食事療法として、短期間の断食が有効な可能性が報告された。

多発性硬化症(MS)では、免疫系が誤って神経細胞を攻撃し、ミエリン鞘を傷つけることによって、神経細胞による信号の伝達が妨害される。これにより、筋肉の弱化、疲労、バランス障害、慢性的な痛みなどの様々な症状が生じる。

これまでに、MSに対する根本的な治療法は開発されておらず、治療としてはもっぱら症状の管理に重点が置かれている。

一部の研究によって、食事療法がMS症状の管理に有効な可能性が示されているが、いまだに証拠は十分とは言えず、研究段階にとどまっている。

そこで、ワシントン大学の研究グループは、食事療法の一種として、断続的な短期間の断食が与える効果について、症状の管理に役立つかどうか研究を行った。

短期間の断食の効果について、MSのモデル動物を使った実験によって期待できる結果が得られたことから、Piccio博士らの研究チームは人間の患者を対象にした初期試験を行い、良好な結果が得られるかどうかを検証した。

これらの研究成果は、Cell Metabolism誌に発表された。

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食生活が症状に影響を与える


手始めに、Piccio博士らのチームはMSのモデルマウスを使って実験を行った。この実験では、一部のモデル動物に4週間のあいだ食事制限を行い、一日おきにだけ食事ができるという状態に置かれた。

別のグループのモデル動物には、食事制限を行わなかった。そして、すべてのマウスには一種の免疫の接種が与えられ、MSと類似する症状が引き起こされた。

その後、ふたつのグループはそれぞれの食事条件を7週間続けた。

その結果、断食を行ったマウスは、神経への損傷に対してより抵抗性を示し、筋肉の弱化や麻痺、運動の困難などの症状を引き起こしにくくなった。

断食を行ったマウスの一部でもMSに類似する症状を起こすものがいたが、その症状の深刻さは断食を行わなかったマウスに比べて軽かった。


断食が免疫系に与える影響


断食を行ったマウスでは、炎症が軽いことも観察された。そのマウスでは、炎症を起こすヘルパーT17細胞が減少し、炎症を抑える制御性T細胞が増加した。

「断食が炎症と免疫反応に影響する方法には、いくつかの可能性があります。その一つは、ホルモンレベルを変化させることです」とPicco博士は述べる。「我々は、抗炎症ホルモンであるコルチコステロンが断食したマウスで二倍近くに増加することを発見しました。しかし、断食が腸内細菌を通して影響することも考えられます。」

断食を行ったマウスでは、腸内の微生物がより多様になったと研究チームは説明する。このような腸内細菌の変化は、健康状態を良くすることにつながると考えられてきた。

短期間の断食を繰り返したマウスでは、MSの症状を軽減すると考えられているLactobacillusバクテリアが増加していた。

また、断食を行ったマウスの腸内細菌を断食しなかったマウスへと移植することで、断食しなかったマウスがMS様の症状への耐性を獲得することも発見された。

この結果は、腸内細菌が保護的な役割を果たしていることを示唆している。


食事療法はMSの新たな治療法となるか


マウスを用いた実験による結果を受けて、Piccio博士らのチームは16人のMS患者を対象に初期の臨床試験を行った。参加者は、断続的なエネルギー制限ダイエットを行い、二週間に渡って一日おきにカロリー摂取を制限された。

この試験の最後には、参加者の腸内細菌と免疫システムがマウスで観察されたのと同様の変化をすることが発見された。

現在、Piccio博士と研究チームは、再発寛解型MS患者を対象としてより大規模な臨床試験を計画している。

この試験では、12週間の間、通常の西洋スタイルの食事法とエネルギー制限ダイエットの食事法が比較される。エネルギー制限ダイエットでは、一週間に5日間は通常の食事を行い、残りの二日間は野菜から500カロリーのみを摂取する。

全ての参加者は、すでに処方されたMS治療薬の使用を継続し、症状が再発した場合には試験の期間中であっても必要な処置を受ける。

Piccio博士によれば、「我々は臨床的な効果を見ようとしているのではなく、何らかの改善が見られることを期待している」という。

「MSの症状は多様で、再発寛解型MSでは、長期間に渡って安定で症状のない時期があるため、効果を見るためには非常に大きな臨床試験が必要となります」と彼女は説明する。

「そうではなくて、我々は制限された断食が人々の代謝や免疫反応、腸内細菌にマウスと同様の変化を与えるかどうかを見ようとしています。」

研究チームは、このような食事の変化は、たとえ臨床試験で効果が見られたとしても、病気を根本的に治癒するものではないと警告する。しかし、MS患者の生活に重要な違いをもたらす可能性はある。

この病気に関わる医師は、食事のみで病気が治癒するとは誰も思わないでしょうが、現在の治療に食事療法を加えることによって、患者の生活を良くすることはできるかもしれません」とPiccio博士は説明する。





参考:Intermittent fasting may benefit people with MS